タイトル「他人はごまかせても体はごまかせない」は、先日観ていた人気番組、NHK「カーネーション」でヒロインの糸子が、がんばりすぎてダウンしたときのセリフだ。いいところを突いていて感心した。
大脳皮質が計算した答えより、脳幹に近い部分のセリフが発するものは、聞き手側のイメージが膨れるし、体を通して聞く分、役に立つと思う。今朝は、役に立つ日本経済新聞の記事が、ドラマのせいか目についた。
ということで、記事をご紹介。
実用品にみる個人消費 単価は上昇、底堅さ実感 しまむら社長 野中正人氏
2012/3/19付日本経済新聞 朝刊
景気回復の手応えがあまり感じられない中で、個人消費の動向に明るい兆しが出てきている。全国に1700店以上の実用・ファッション衣料店などを運営する、しまむらの野中正人社長に、地域別の消費動向や今後の消費の行方について聞いた。
――東日本大震災後の1年の消費行動を地域別にみるとどうか。
「震災直後は製造業の生産活動と消費は連動していた。愛知県や広島県のように自動車産業が集積する地域では生産活動が停滞し、既存店舗の前年同期比売上高は2~3%減だった。供給網が復旧するにつれて消費も活発になり、昨年7月以降は堅調だ。一方、薄型テレビの大型工場などがある三重県は戻りが鈍い。生活を一からつくり直す被災地は復興需要があり好調だ」
「震災後半年は地域でまだら模様だった消費も、今はほぼ全国的に前年実績の売上高をクリアしている。昨年10月ごろは、希望的観測も込めて『消費は意外と底堅い』と言っていた。今年1月の既存店売上高が前年実績を4%上回り、消費が強いことに確信が持てるようになった」
プラス思考に
――なぜ力強いと。
「消費者がプラス思考になっている。政治や経済情勢など、世の中の悪いことを批判的にみていた空気が薄らいだように思える。そんな不満をぶつける場合ではなく、一人ひとりが元気に行動を起こそうとしている」
「淡いピンクやグリーンの商品がよく動いている。これは景気拡大期にみられる現象だ。売り場の見栄えをよくするためにもっと目立つ色彩の衣料品を陳列すると、その商品が先に売れている。リーマン・ショック後の消費風景とは全く違う」
「北海道や北陸、和歌山など売り上げ不振の地域があるが、天候不順や天災で大抵、説明が付く。消費水準の底上げは長く続くとみている」
――価格下落は続いていますか。
「単価は上がっている。客単価や1品単価は前年比で2~3%の上昇だ。この傾向は昨年あたりから顕著だ。確かに、絶対的な価格の安さを求める消費者もいるが、価格と商品価値のバランスを考える消費者は多い。明確な価値が分かると値下げしなくても売れる」
「機能性を打ち出した肌着は男性で1枚980円、女性は780円が売れ筋だ。少し前までは機能性のない男性肌着は2枚1280円、女性は980円が売れていた。特売品だと480円だったが、品質を上げて580円にしても販売数量は変わらなかった」
――雇用や所得に改善の兆しがない中での消費回復はなぜですか。
「景気刺激策の家電エコポイントの終了で、対象以外の商品やサービスの支出に回った可能性が高い。百貨店の売り上げが堅調なのも、そうした影響が出ているのではないか」
電気値上げ懸念
――懸念材料はありますか。
「消費増税の議論よりもガソリンの店頭価格の上昇のほうが気になる。郊外の店舗は顧客は車で買い物に来るから影響は大きい。主婦はガソリンスタンドに大きく表示される店頭の数字をよく覚えている。生活に密着したものだけに、1カ月で1リットル10円も上昇すると心理的な影響はある」
「電気料金の値上げが実施されると悪影響が出る恐れはある。1世帯当たりに換算すると数百円の負担でも主婦は嫌がる。最近は株価も戻ってきたが、普通の人々の生活で株高は直接的な効果はないとみている」
(聞き手は編集委員 田中陽)
記事、中ほどの「淡いピンクやグリーンの商品がよく動いている。これは景気拡大期にみられる現象だ。売り場の見栄えをよくするためにもっと目立つ色彩の衣料品を陳列すると、その商品が先に売れている。リーマン・ショック後の消費風景とは全く違う」 という言葉は多くの意味がふくまれている。「淡いピンクやグリーンの商品」という言葉は、実際に店頭をみてまわったことを裏付ける言葉だ、資料からだけでは、このようなセリフは吐けない。体を動かし、その体を聞くことのできる経営者は本物だと思う。
次の記事も面白かった。
人ごとでない「ソーシャル」 示唆に富むヤフー社長交代
2012/3/19付日本経済新聞 朝刊
日本を代表する技術企業であるソニー、パナソニック、シャープで今春、一斉に50歳代の新社長が就任する。ソニーとパナソニックは創業者を除くと史上最年少トップ。大赤字を出すに至り、デジタル化とソフト化という電機産業のパラダイム転換にうまく適応できていない現実をようやく直視した結果といえる。
電機に比べてはるかに高速でパラダイム転換が進むのがインターネットの世界だ。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)がネット利用端末の主流になるモバイル化が急速に進行中。一方でネットの入り口をヤフーのようなポータルやグーグルなどの検索ではなく、「友達」のクチコミ情報が集まる交流サイト(ソーシャル・ネットワーキング・サービス=SNS)にする人が急増している。
電機業界が若返りと呼ぶ50歳代でもこの変化についていくのは難しいようだ。ヤフーは4月1日、好業績にもかかわらず55歳の井上雅博氏が44歳の宮坂学氏に社長のバトンを渡す。
「『イノベーションのジレンマ』をいかに克服するかばかり考えている」――。井上社長がこう打ち明けたのはまだ彼が40歳代だった2006年の春だった。成功事業の存在が革新的な新事業育成の邪魔をするという、企業経営に共通するワナのことだ。
当時は国内でミクシィが、米国ではフェイスブックが、ともに利用者を急増させ、ネット上でSNSの存在感が急拡大していた。ところが、井上社長自身は急成長するSNSを「交換日記」とやゆし、今日に至るまで積極的に使おうとしなかった。交流サイトの存在意義がよく理解できなかったのだ。
だが現場には出遅れた焦りが広がり、06年春に「デイズ」と呼ぶ消費者向けSNSを立ち上げた。08年にはビジネス用SNSの「CU」を開始。現場主導でソーシャルの広がりについて行こうとしたが、CUは09年秋に閉鎖。デイズも昨秋、ひっそりと閉じた。
この間、携帯の世界はあっという間にスマホの時代に変わり、ネット利用の大きな部分がスマホアプリ経由やSNS経由となっていく。パソコン向けウェブの世界でヤフーが築いた圧倒的な存在感は、ソーシャルの世界にもモバイルの世界にもない。その間、悩み続けた井上社長がイノベーションのジレンマの問題にようやく出した答えが結局、自らを含む経営陣の若返りだった。
ソーシャルもモバイルも自ら使いこなしてみないと消費者の感覚、ニーズは想像すらできない。これはネット企業ばかりの課題ではない。今や消費者向け事業を手掛ける企業ならどこでも、ソーシャルの世界で消費者と情報交換のパイプを直接築き、ブランドイメージや製品の認知を形成する必要に直面している。企業が消費者に直接情報を発信する「企業のメディア化が進んでいる」(徳力基彦アジャイルメディア・ネットワーク社長)のだ。
逆にいうとソーシャルとモバイルを理解できないと、消費者向け事業を果敢に進めていくことは難しい時代になってきたのではないか。ヤフーの大胆な若返り人事は他業種の企業にとっても示唆に富んでいる。
(編集委員 小柳建彦)
〆が、「逆にいうとソーシャルとモバイルを使えないと、消費者向け事業を果敢に進めていくことは難しい時代になってきたのではないか。」と書いたら、もっといい記事になっただろう。「理解」ではなく「使う」とか、「感じる」というような体を使う表現がこの記事には望ましい。「理解」ではあまり役には立たない。先ほどの経営者の言葉と、上記の記者の言葉では経験値としてはかなりの隔たりがある。とはいえ、視点はよいので、これから先、伸びる可能性がある記者だと思う。
いい記事ばかりではなく、だめな記事もある。
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グーグルが問う利便性とプライバシー
2012/3/19付
米グーグルが3月から導入した新しい利用規約がプライバシー論議を呼んでいる。新方針では検索やメール、動画閲覧など同社のネットサービスの利用履歴を互いに関連づけ、利用者に情報を提案できるようにする狙いだ。しかし、プライバシーが侵害される恐れがあるとの声も上がっている。
グーグルは今回、サービスごとにバラバラだったプライバシー保護方針を共通化し、平易な文章で示す一方、約60のサービスについて利用者の情報を顧客ID(認証番号)で一元管理することにした。旅行情報を検索している人には目的地の映像などを自動的に提供できるようになるという。
これに対し、フランス政府などは「新方針は欧州連合(EU)のデータ保護指令に反する」と反発、米国内でも各州の司法長官などが懸念を表明した。グーグルは「情報流出が心配ならIDを入れずに使うか、異なるIDを使い分けてほしい」としている。
日本でも共通番号制度の導入で個人情報をどこまで関連づけるかが議論となった。しかしネットは顧客契約に基づく民間サービスであり、一概に規制するのは難しい。個人情報保護法も情報の目的外利用や第三者への無断提供は禁じているが、合意に基づく企業内活用は違反とはならないからだ。
問題は情報が個人の意に沿わぬ形で使われたり、誤って第三者に漏れたりした場合だ。同様な課題は米フェイスブックなど交流サイト(SNS)にも指摘されている。各社は安全対策は十分というが、情報が不正に使われた場合には、削除や損害賠償などの手段がすぐとれるようにすべきである。
最も重要なのは「自分の情報は自分で守る」という姿勢を利用者一人ひとりが持つことだろう。身の回りの出来事をネットに記述する人が増えているが、一度公開された情報は事実上、消すことができない。サービスの仕組みをよく理解し、公開する情報を自ら選別することが求められる。
グーグルは街頭写真を公開したデジタル地図でもプライバシー侵害を指摘された。今回は利用者が自分の履歴を削除できる機能も設けたが、無料のネットサービスは個人情報との引き換えに利便性を提供している面が否めない。
どちらを優先するかは利用者の判断だが、どんな手段を取りうるかは、ネット事業者側が丁寧に説明していく必要がある。
〆が陳腐だ。「ネット事業者側が丁寧に説明していく必要がある」は記事を終わらせるためだけの言葉で、なんの意味ももたない。問題点を文字ズラで指摘するだけに留めた社説ということである。実際にグーグルを使用しているのであれば、ネットには説明がふんだんに用意されているのがわかる。むしろ、ありすぎるといって良い。保険証の裏側に注意事項が読めないほど沢山書かれているのと同じだ。
インターネットは開放系である。つけられる説明はあまり役には立たない。記事を書く人は、インターネットを使えない人ではだめなのである。記事の視点もよくわからない。サイトを眺めて、適当にコピペしても、もっとまともな記事ができそうである。
何を言いたいかというと、今、日本経済新聞に必要な視点は、「競争相手としてGoogleを仰ぎ見る」視点のようなものだということである。この社説のような他人事の記事では、いい記事もかけなければ、危機を乗り切ることもできない。それほどgoogleは勢いに乗っているし、日本経済新聞はインターネットを彷徨っているように思える。ここは是非とも『人ごとでない「ソーシャル」 示唆に富むヤフー社長交代』の記事を参考にしていただきたいものである。
追伸、文中の「上から目線」による表記は、文章の性格によるもので、見苦しい場合もあるかと思いますが、なにとぞご容赦ください。