催眠術の神秘を読みました

催眠術の神秘は、しばらくかかって読んでいた本です。初心者用ですが、実務に沿った解説で、なかなか手ごたえがありました。その中で気になった箇所があったのでご紹介します。自己催眠法の説明、「内観精神統一法」と、「瞑想とトランス」についてです。

まずは、内観精神統一法について

内観精神統一法

深呼吸により心を落ち着かせリラックスすることができたなら、つぎには自分白身を見つめることにより精神を統一していく。まず目を閉じたままで自分の呼吸を数えていこう。
この呼吸は普通の呼吸でよいのだ。軽やかに楽な呼吸をしながら、呼吸を一つ、二つと数えてゆく。もちろん声に出す必要はまったくない。心の中で数えてゆけばよいのだ。
初心者は三十位がちょうどよい。あなたは自分の呼吸を数えることにより自分の呼吸に注意の集中が行われているのだ。目を閉じて単に瞑想しているだけでは雑念がつぎからつぎへ浮かび精神の統一はできないが、このように呼吸を数えてゆくことで、白然に呼吸に注意が集中し、雑念はわかなくなるものである。
瞑想つぎに鼻頭を両目で見るようにする。目を閉じているので見えるわけはないが鼻頭をじっと見つめるのだ。しばらく見つめていると眉と眉の間の少し上の辺りがファーとした気持ちになってくる。ファーとした気時ちになってきたならば、今度はそこに光った玉を思い浮かべる練習をする。

この光った玉がぼんやりとでも浮かんできたならば、あなたの自己催眠の第一歩は完全に成功したといえよう。ハッキリとした玉に見えなくてもよい。存在感があればそれでよいのだ。このときに人によって光の見え方がさまざまに異なるが、つぎの進め方について具体的に説明しよう。
 玉の周辺が定まらず拡散して見える人はできるだけ①のように玉を円に近くするように念じていくのだ。 また、②のように光がチカチカ星のように見える人も焦点を絞り、円になるように修行するのだ。
このようにして練習を積んでゆくと、ついには光の玉は太陽の如き輝きをもちハッキリと見えてくるようになるのだ。つぎに、レンズのピントを合わせるようにこの玉をあるいは大きくし、あるいは小さくしてゆくのである。それが自由自在にできるようになったなら、あなたの自己催眠の第二段階は終了したといえよう。
この第二段階が白由にできるようになると軽い紳経症なら完全に治ってしまうのだ。

なぜそうなるのか

というと、そのためには瞑想とトランスについて知らなければならない。つぎに.これについて解説してみよう。

瞑想とトランス

瞑想1

ある人が目をつぶっているとする。第三者がこの人を見たとき、たんに目を

閉じているのか催眠状態にあるのかを判断することは大変に難しい。しかし、目を閉じている本人からみれば、瞑想している状態と催眠状態は明らかな違いがあるのである。

たとえば、瞑想状態にある方が菊の花を思い浮かべても、それはたんなる想像であり、目に見えるような形ではけっして姿を現わさない。 催眠状態、すなわちトランスに入ったときには、菊の花と言えばそれは現実感をもって目の前に現われるものなのである。一種の幻覚のようなものである。 この原理からみて、思い浮かべるものが現実感をもって現われてくる場合には、その状態はきわめて催眠状態に近いものということができるだろう。ショルツ博士の白律訓練法においても、その発想法は同じようなものなのである。 博士の場合には、催眠術にかかった人を統計的に調べ、催眠にかかった人の自覚症状を調査した結果、第一に腕が重い、第二に体が熱くなることを発見したのである。したがって博士は、自分で自分に催眠をかけるためには、逆に腕に重さを出し、体に暖かさを作れば催眠状態になると考え、この原理により自律訓練法を編み出したのである。しかし、この方法は第一段階の”腕が重い”のところでつまずいてしまい、なかなか実際にはうまくいかない場合が多い。つまり、それは注意集中というとごろに訓練の力点をおいていないので、催眠感受性の悪い人にはまるで役に立たないのである。

一応あとで、有名なるショルツ博士の自律訓練法は参考に挙げるが、私の考案した内観統一法による自己催眠のほうが数倍勝れていると自負している。事実、自律訓練で不成功に終わっても、この方法により数多くの人が救われている。自分がいま瞑想にいるのか、あるいはトランスなのかの大きな別れ道が、この方法で判断できるのだ。そしてこのトランス状態から、自己の身体に対し催眠をかけてゆくのが最も正しいやり方であると考える。

瞑想2自己催眠進化法

さて、以上で自分自身による催眠状態に入ることはできたわけであるが、つぎにはこの催眠状態を深めなければならない。 これには二つの方法がある。まず第一は、はっきりと丸い型をとって表われた光る玉をだんだんと大きくする方法である。玉が少しずつ大きくなり、ついには目の前いっぱいに広がり、自分の存在自体が光の中に包まれてしまうように練習することだ。光の玉が大きくなるにつれ、催眠が深まっていると思えばよいのだ。 第二の方法は、これと反対で丸い玉を少しずつ小さくし、小さい星のようにしてしまうことである。玉が小さくなるにつれて光の強さは増していかなければならない。この最終はパチンコの玉位の大きさとなる。(p87-p91)

 

 

以前、私がこのブログで書いた、瞑想体験についての記事によく似ています。参照してみてください。著者は、「瞑想とトランス」と二つの状態を比較しているのですが、私に言わせれば「黙想と瞑想」という風になるのでしょうか。著者が言っている、自己催眠の第一歩と第二段階は、チャクラを開く瞑想に対峙するもののようです。とはいっても、おそらく同じものではなく、脳下垂体を刺激した結果、同じように光とかを現出させることになっているのだと思いますが・・・。いまとなっては、桑田二郎氏のマンガに先に出会ってよかったと思います。著者は、(私と同じように)ショルツ博士よりも内観精神統一法がよいといってますが・・・。

まあ、いずれにしても、普通の意識とは違う’変容意識’を経験してみることは大事なことだと思います。

若干話が跳ぶが、憑依についての箇所があり興味深かったのでご紹介。

つきもの

自分に狐がついている、犬の霊がついている、死者の霊がついている、と真剣に信じている人がいる。心霊を唱える新興宗教の信者に多くみられる現象である。 また、夜中に布団の上に霊らしいものが現われ、胸の上にのしかかってくる。夜中に目が覚め、悪夢にうなされる。それが毎日のように続く。これらの現象に悩んでいる人は、意外に多くいるものであるが、この原因には三通りがあると思っている。
一っには精神病によるもの、っまり精神の混乱による幻覚症状、これらの人は一刻も早く精神科の診断を必要とする。
また一つには純粋たる心霊現象的なもの、エキソシストではないが、どうしても理論的に説明のつかない現象もあるのである。残る一つは自己暗示によるものと考えられる。
しかし、このような「つきもの」の原因を精神病によるものか、心霊的なものによるものか、あるいは自己暗示によるものかの判断はきわめてむずかしい。比較的精神病によるものははっきりと認識することができるが、心霊的なものか白己暗示によるものかの判断はじつにむずかしいといえるo
私は、このような悩みの人に対するときは一応精神病を除いては、自己暗示としてその悪い観念を取り払うつもりで施術するが、それは未知なるものがすべて合理でわりきる態度が好きではないからである。つまり、心霊を認めるというよりも、否定できないのである。
つぎに催眠術により、これらのつきものと思われる治療例を紹介しよう。地方から上京して八年、二十六歳になる男子で、仕事はセールスマンである。
彼は、仕事が終わリアパートに帰ると、だれもいないはずの彼の部屋に、人の気配がするという。そのアパートに移る前は会社の寮にずっといたが、アパートに移る、三ケ月ほどたった頃から、そのような感じにとりつかれたという。最初は気のせいだろうと思い、あまり気にしていなかったが、そのうち夜中に目が覚めるようになり、布団の上から何かで押さえつけられているような気がしていつも目が覚めるのである。それからは電気もつけっぱなしにして眠るようにしたところ、かなりよくなったが、ある日、恐ろしい夢にうなされ目を覚ましたところ、白い衣を着た中年の男が布団の上からおおいかぶさるようにして自分の顔を見ているのだ。そして、その人物はこのように言ったという。
「私はお前といっしょ、いつもお前といっしょなのだ。フフフ:…」
彼は全身、汗びっしょりになり朝まで一睡もできず、気になってノイローゼ気味となり家主のところへ行き、白分の体験を話し何か過去にこの部屋でおきたことはないかとしつこく間い詰めたところ、家主は、じつは三年前に中年の男の自殺があったが、神様のお払いをしてあるから心配いらないとのことであった。
その後、彼はいつもだれかが自分といっしょにいるような気がし、疲労困想して私のところへ現われたのだ。
この例はじつにむずかしい。なぜかというと、白殺者の心霊による場合もあり得るからである。しかし、私の判断は白己暗示によると決めてかかった。催眠誘導により、その模様を再現することにした。「あなたは悪夢を見てうなされたことが頭の中に思い出されてきました。あなたは寝ている。夜中だ。あなたはアパートの一室で寝ている……」
すると、彼は苦しそうにもがき始めた。
「胸が苦しい。だれかが私の上に乗っている。苦しい」
「あなたの上に乗っているのはだれですか」
「わから鞍い。わかりません」
「よく見てごらんなさい。それはあなたではないですか」
「……よく見えません。私かもわかりません」
「これから私が三つ数えると、はっきりと姿を現わします。それはあなた自身なのです」
「三…二…一、よく見なさい。だれなのですか」
「私です。もう一人の私がいます」
「そうでしょう。なぜ、あなたが、夜中にうなされたり、幽霊みたいなものが現われたかというと、寮生活から、アパートに移ったのがその原因なのです。あなたは寂しさから、自己暗示し、そのようなものを作りだしたのです。本当はあなたの心の影なのですよ。しかしきょうからは、その本当の原因がわかったので、あなたにそのようなことは起きません。夜はグッスリ眠り快適な朝を迎えることができます。それから、あなたの部屋で自殺した人は幽霊でも何でもないのです。人はいつか死ぬのですから、もし幽霊が出るのなら地球は幽霊だらけになってしまうことでしょう」

彼は一回の施術で完全に治ってしまった。しかし、私にb本当のところその理由はわからないが、このような例では催眠術が効果をあらわすのだ。私の場合は施術の時、もしものときを考え仏を念じ悪霊がつかぬように行うので、仏のカによるのかもしれない。「いずれでも、私の催眠はこのようなときでも効果を発揮する。

つぎに川越に住むN氏の例をあげる。この例は最初、奥さんから相談があった。
N氏は熊本から上京し三十年になり、駄菓子の販売をその仕事としているが、最近様子がどうもおかしいということである。私がよく事情を聞いてみると、ここ一年ぐらい、月明かりがきれいな夜になると、夜中の十二時ごろ裏庭にフラフラ出かけ二時間ぽど帰ってこないというのだ。はじめは気がつかなかったが、いつも膝のあたりに泥がついて帰ってくるのだ。本人にどうしたのと聞くと、月がきれいだから散歩しているのだと答えるのが常であった。しかし、その翌日はいつもぐったりと疲れ切ったように眠ってなかなか起きないという。奥さんは、女でもいるんじゃないかと私に相談し、それが悩みですと訴えた。
私はもしそうなら催眠術の分野ではないので、念のため、御主人をつけてみるよう言っておいた。しばらくするとその奥さんから電話があり、ひどく興奮した様子で、月夜の晩主人の出かけるのをつけていったところ裏山の畑の真中に座り込み、手を合唱し狐のようにぴょこぴょこ、一メートルも飛び跳ねている主人の姿を見てしまったという。びっくりして思わず「アッ」と声を出したところ、その様子に振り向いた主人の顔を見たら、目は狐のようにつりあがり、口が裂けているようで口もとからは涎が出ているようだったという。
一目散に家に逃げ帰り、布団にもぐってじっとしていると、何気ない顔で主人が帰ってきたという。奥さんはこれがウワサに聞いた狐つきではないかと言ってきたのだ。
私は御主人に来てもらい、催眠誘導し、月夜の晩であることをイメージさせたところ体が麗えだし、狭い私の部屋の中をぴょんぴょんと飛び跳ねだした。私は、つぎのように暗示した。
「お前は狐だな。随分元気がよいが、お前の乗り移っているNさんは、もうだいぶん体が疲れているようだ。それにしてはお前は元気がよい。こんな体のくたびれたNさんにはもったいない。だからNさんの体で暴れるだけ暴れたら、あそこの金魚に乗り移ってみろ、さぁ暴れろ」
と暗示するとNさんのピョンピョンはものすごくなり気が狂ったように暴れると、バタッと倒れ、失神してしまった。そこで
「あなたの体から狐は抜けてしまった。もうあなたにはいかなる霊もとりつくことはない、悪霊は去った」
と暗示した結果Nさんはすっかり元気になり、いまでは以前と同じ明るく楽しい毎日を送っている。金魚に狐の霊が乗り移り、跳ねて困るというようなことはいまでは一度もない。

憑依もさまざまで、狐に憑依されるとこまるが、高貴な人や神さまに憑依されると喜ばれることがある。人間とは実に勝手なものなのだ。

死んだら、どうなるか? 死んだらおしまいではなかった?

養老孟司氏が、人間は三人称の死は体験できても一人称の死は体験できないというようなことを言っているのを読んだことがあります。傍から見れば悲惨な死も、実際に死んでいく人にとってはそれほど悲惨じゃないのではないかというのは、充分に考えられることです。

わからない「死」が過大に美化されたり、忌み嫌われたりしがちではありますが、逆に軽く考えてみることも必要じゃないかとつらつら思っておりました。このたび、わかりやすい本に出会えましたので、ご紹介します。

死んだらおしまい、ではなかった 2000人を葬送したお坊さんの不思議でためになる話

著者は、昭和五十五年(1980年)から平成三年(1991年)にいたる11年余の間に、2000以上の葬儀を行った僧侶。ある喪主の方に、「成仏するんでしょうか?」と尋ねられ、答えにつまったことが発端で、葬儀の際に故人の状態に注意を払い続けるようになりました。そしていつしか、霊の実在を感じ取れるようになったというのです。体験と著者の実感から書かれたこの本は、説得力がありました。しかも、分かり易い。

ということで、以下に紹介するのは、人が死んだらどうなるかについてです。(p48~p57)

・・・亡くなった「本人」はどこにいるのでしょうか。
だいたいの場合、「本人」は遺体の近くにおります。
そして、遺族や僧侶が葬儀を行う様子をじっと静かに見ているのです。
葬儀の光景も遺族の方々の様子も、「本人」には見えています。声も聞こえているのです。

けれども実はこのとき、2,3割くらいの人が、自分が死んだことがわかっていません。
ボケーっとしているというか、もうろうとしていて、呆然としている方が結構おられます。
だいたいの場合、私が通夜で感じる「本人」の様子は”キョトン”というか”ボケー”というか、要するに「なにがなんだかわからない」といった感じが多いのです。そして、お経をあげているうちに、もう少し進むと、「疑っている」という感じになるのです。

「本人」が「自分は葬式の夢を見ているのだ」と思っていたり、またはそう思いこもうとしているようなのです。
「本人」には葬儀をしている光景はわかるので、

ーどうも、自分の葬式をしているらしい……。
-ああ、自分は死んだのかもしれない。
-どうも死んだようだ。そうか、死んだのだ。

と次第に悟っていくわけです。

そして、身体があればこそできた諸々のこと、ああしたいこうしたいという物事が、もうできないのだと気づいていくのです。いわゆる俗世の未練が絶ちきれていくわけです。そして、成仏へと進んでいくわけです。

このように故人に自分の死を悟らせ、俗世の未練を絶ちきらせていくのが通夜であり、葬儀の本質的な意義なのです。
なかには、身体と「本人」が分かれたときに、「本人」が十分に自分の死を悟っている、事態をのみこんでいる人もあります。そういう場合には、僧侶が来てわざわざ葬儀を執り行う必要はないとも言えるでしょう。

しかし、実際には、まわりはわかっていても「本入」は自分の死に気づいていない場合が多いのです。
ー助かる、助かる。大丈夫、大丈夫。
と、思いながら亡くなっていく人が多いのです。

亡くなると、病気で苦しんでいた場合など、その肉体的な苦しみから解放されます。ろうそくの炎が消えるときに急に大きくなるように、身体がよくなったような気がするようなのです。そのため、白分が死んだことには気がつかないで、

-自分の病気が治ったのだ。

と錯覚してしまう場合もあります。
だから、そういう人には葬儀という一連の儀式をして、自分の死という現実を気づかせてあげなければいけないのです。

繰り返して言います。

葬儀とは、死によって身体と「本人」が分れたときに、その「本人」に対して遺された者たちや僧侶が、儀式な言葉でもって「あなたは、亡くなったのですよ」と教えてあげることなのです。そして、この世への執着や未練を断ちきってもらうのです。

これが枕経であり、通夜であり、葬儀を行う意義であるわけです。

よく「引導を渡す」という言葉をお聞きになるかと思います。

「引導」というのは、もともとは「手引きする」「案内する」というような意味ですが、人々を導いて仏道に入らせる意味で使われていました。
「引導を渡す」というと、とくに、死者を迷界から浄土へと導く儀式のことになります。

「迷界から浄土へ導く」には、死者に、「自分が死んだという事実」を確実に認識させ、現世への執着を棄てさせて、悟りの仏道へと進むようにさせねばなりません。そのためには、「あなたはまちがいなく死んだのですよ」という事実を、
死者に宣言する儀式が必要になるのです。

もはやこの世にはもどれないこと、この世の未練を断ちきつて浄土に進むしかないことを、悟らせるわけです。
それが「引導を渡す」という意味であり、葬儀を行う意義なのです。

ただ引導を渡したからといって、すべての人がただちに納得するわけではありません。

「おれは死んでなんかいないんだ」と拒否されることもあります。

さらには、「本人」のもともとの性格もあります。
生きている人間がさまざまなように、故人の性格もさまざまです。
生前、ものわかりの悪かった人が、死んだからとい。てものわかりがよくなることはありません。生前、頑固だった人が死んで素直になるといったことはありません。疑り深い人は、死後も疑り深い.あきらめの悪い人は、死んでもあきらめが悪い・。生前の性格は死後もそのままなのですから、自分の死をなかなか認めようとしない人もいるわけです。

また、なかには未練や執着があまりに強かったり、疑り深い性格などから、自分の死をまったく納得しないでいる人もいます。そうなりますと、この世で亡霊となって長い間さまようこともありうるわけです。

だから、繰り返し繰り返し「あなたは死んだのだ」ということを伝えるために、葬儀の後にも法要を重ねていく必要があるのです。

「本入」が死を自覚するまでの期間はどれくらいか

自分の死に気がつかない人が少なからずいると申しました。また白分の死に気づくまでには、多少の時間がかかるものなのです。死んだからといって、その直後に自らの死を白覚するというのではなく、次第に時とともに自覚していくのだと思われます。

そこで、通夜、葬儀、初七日、四十九日と回を重ねていくうちに、何度も何度も「あなたは死んだのですよ」と伝えていくことになります。こうして回を重ねていくことよって、「本人」も次第に自分の死を自覚していくことになるのです。自分の死を悟ることによって、「本入」がこの世の執着を棄てて成仏の方向に向かうのです。

私が「本人」を感じるのも、亡くなってすぐのときがやはり一番強く、法要の数を重ねて時を経るにしたがって、徐々に薄くなっていきます。それは「本人」がこの世の執着や未練を葉てていくことと比例しているようです。

さて、「本人」が自らの死を自覚するまでの期間は、いったいどれくらいなのでしようか。

仏教では、死の瞬間から次の生を受ける間を、中陰(中有)といって、その期間を四十九日としており、七日ごとに法要を営んできたのです。私自身の葬儀と法要の体験からしても、いわゆる未練がおおかたなくなったと思わる区切りは、まあ平均的には四十九日ということができます。ただもちろん、これには個人差があります。早い方ですと二、三週間でそこまでいたる人もいますし、遅い方ですと二、三年もかかる場合もあります。

しかし、ときには大変な長い期間にわたって自らの死に気がつかない場合もあるのです。たとえば、十分に葬儀や供養をせずに放っておかれたときがそうです。突然の交通事故で亡くなり「本人」はそのままの事故現場にいて、自分が死んだという自覚がない場合もそうです。そして、この世に対する未練があまりに強烈だった場合もそうです。

極端な場合には、何十年、何百年、いや何千年も時空を超えて残る場合もあるのです。これが、いわゆる「呪縛霊」とか「地縛霊」 などと言われるもののことです。平家の怨霊話とか、いろいろと各地で伝えられているのがそれです。

 

とにかくwindows XPが遅いので・・・。

現在、自宅のデスクトップパソコンはwindows 7 / Lenovo core3です。このほかに、XPデスクトップが2台、XP/ノートパソコンが1台あるのですが、去年あたりからやたらとXPパソコンが遅く、重くなってしまいました。

いままででも、このようなことは多々あり、ネットで調べてみると、それなりの理由がみつかりましたが、今回は理由がわかりません。OSが古くなると、そんなものかとあきらめるのも一つの方法ではありますが、どうにも、この遅さには腑に落ちないものがありました。

ということで、XP/ノートパソコンをリカバリーを使って、新規に一から始めてみましたが、いやあ、見違えるように早くなりましたね。一世を風靡したasus eeepc ネットブック /cpuは省エネのatom ですが、まだまだ使えます。遅さでお悩みの皆さん、、是非、ハードディスクをフォーマットして一から出直してみてください。

このasus eeepcは2009年発売ですが、この4年のうちにすっからスマホ/タブレットの時代になってしまい、影が薄くなってしまいました。しかしながら、クラウドを利用すれば、スマホ/タブレットと共存して使うことができます。具体的にはDropbox、Nドライブ、エバーノートを使えばどのパソコン/スマホ/タブレットからでも、おなじ情報にアクセスできます。

シェールガス革命の影響

先日のアルジェリアでの日本人人質事件は、アメリカのシェールガス革命が遠因であるともいわれている。自国でエネルギーが賄えるようになったアメリカ合衆国が資源国への軍事力の行使を控えるようになり、軍事バランスが崩れて、紛争が流動化してきたというのだ。

そもそも、「革命」といわれるほどのことなので、予期せぬ事象が生じてくるのは当然なのであろう。そういった意味で、「シェールガス革命」は注目せざるを得ないと思っていた。

今日の日経新聞には須藤繁 帝京平成大学教授による、シェールガス革命の影響(上)、買い手優位、世界で顕著は、よくまとめられていて参考になりました。以下に紹介します。

買い手優位、世界で顕著に

須藤繁 帝京平成大学教授

<ポイント>

○米輸入縮小が響きロシア産ガスがアジアへ

○シェール革命の影響は東アジアで最も顕著

○消費エネルギーの一定量は自分で賄う必要

 昨年1年間で「シェールガス革命」や「シェール層開発」の認知度が大きく高まった。

シェール(頁岩=けつがん)とは、地質学的には泥岩の一種で、その隙間は100万分の1ミリメートル。一方、メタンの分子サイズは1000万分の1ミリメートルで、泥岩の隙間の10分の1の大きさだ。一般にガスはその分子の10倍程度の隙間では移動性に乏しくシェール層内に滞留する。これがシェール層に封じ込められていたシェールガスで、近年米国で本格的に実用化された水平掘りと水圧破砕により、地上に取り出すことが可能となった。

シェールガスの登場は、既存のガス供給国間の利害関係や消費国との関係を根本的に変えたといってよいだろう。シェールガス開発の影響はまず、米国のエネルギー需給に変化をもたらした。

米エネルギー省が昨年7月に発表した2012年版「年次エネルギー見通し」では、05年に60%程度だった石油の純輸入比率が11年には49%に低下したことに加え、35年には36%へとさらに低下する予測が示された。00年前後の年次エネルギー見通しでは20年時点の石油の純輸入比率は60%程度になるとみていたが、シェール層開発が石油自給率の大幅な改善をもたらした。天然ガスに関しても11年の純輸入比率は11%だったが、20年過ぎには需給が均衡し、35年には5%程度の純輸出に転じるとみられている。

国際エネルギー機関(IEA)が昨年11月に発表した「世界エネルギー見通し」でも最大の注目点は米国だ。米国はシェール層開発を主因として、ガスでは15年にロシア、石油では17年にサウジアラビアをそれぞれ上回り、世界最大の生産国になるとみている。

米国のシェール層開発が国際エネルギー情勢に及ぼす影響は既に顕在化している。

1990年代後半に米国はガス需要の増加を北米での供給増だけでは充足できず、2000年代初めには消費量の約10%を輸入で賄うに至った。その時点では将来の需要を充足するには大量の液化天然ガス(LNG)輸入が不可避とみられ、全米各地にLNG輸入ターミナルの建設が計画された。前述のエネルギー年次見通しの04年版でも、米国の25年のLNG輸入量は1億トン以上に膨らむと見積もられていた。しかしながら、その後本格化したシェールガス生産により、これらの建設計画の大方は雲散霧消した。

その一方で、ガス生産国(カタール、ナイジェリア、トリニダード・トバゴ、赤道ギニア)は、米国のLNG輸入を当て込んで生産能力を大幅に拡張した。しかし米国との契約に至らなかったため、大量のLNGを長期契約以外の形態で取引せざるを得なくなった。米国に持ち込めなくなったLNGはスポット(随時取引)市場に流れ、主に欧州市場で売買されている。

シェールガス開発の本格化と軌を一にして起きたことは、LNG取引の買い手市場化である。中でも欧州のガス・電力会社がロシアからの長期契約ガスの引き取りをやめて、スポットLNGに切り替えたことが象徴的だ。こうした玉突き現象の結果、最も重要なのは、ロシア産ガスの行き先が欧州からアジアにシフトしつつあることである。

一方、中国は06年にLNG輸入を開始した。そして09年末にはトルクメニスタンから天然ガスの輸入を開始し、11年11月には600億立方メートルまで増量することで合意した。中国の天然ガス需要は90年の147億立方メートルから、00年には245億立方メートル、10年には1076億立方メートルに増えている。さらに中国政府によれば、20年には3800億立方メートルに増えるとみられている。

中国はこれまでも環境対策面から天然ガスの導入を重点的に進めており、これからもその方向性は変わらない。20年のガス需要の内訳に関しては、在来型国内天然ガス生産が2000億立方メートル、シェールガスが1000億立方メートル、コールベッドメタン(石炭層に含まれる天然ガス)とLNG輸入合わせて800億立方メートルという絵が描かれている。

11年4月に米エネルギー省がまとめたリポートによれば、中国のシェールガス資源量(回収可能量)は、世界最大の36兆立方メートルに達する。第2位は米国の24兆立方メートル、第3位はアルゼンチンの22兆立方メートルで、以下メキシコ、南アフリカ、オーストラリア、カナダの順である。中国のシェールガス開発は世界のエネルギー需給のみならず、地球温暖化対策の方向性に大きな影響をもたらす。

シェールガス革命がもたらした地殻変動が最も顕著で、今後さらに先鋭化するとみられるのが東アジアである。東アジアには今3つの大きなガス供給の波が押し寄せようとしている。ロシア産ガスの東方シフト、シェールガス開発を背景とした北米産LNGの流入、中国のシェールガス国内開発の3つである。これらに日本のメタンハイドレート(海底の天然ガス資源)開発が加わり、2020年代にはこの4つの大きな流れが均衡点を模索することになると予想される。

このうち北米産LNGに関しては、今月6日に東京電力は三菱商事と三井物産を通じて年間80万トンを17年から輸入する計画を発表した。輸入のみならず、LNGプロジェクトの権益確保も進んでおり、中部電力・大阪ガス連合、三井物産・三菱商事連合、住友商事・東京ガス連合の3プロジェクトは、合計で最大輸出能力3000万トンのLNGプロジェクトに参画している。

こうした大きな流れの中で、今後日本が目指すべきは国際LNG価格体系の是正である。日本の天然ガスの調達コストは12年9月には、100万BTU(英国熱量単位)あたり単価で米国の天然ガス指標価格(ヘンリーハブ)の6倍に達した(図参照)。その後はやや沈静化しているものの、エネルギー輸入金額の増加は貿易収支悪化の一因となっている。

日本のLNGの調達コストが高い理由の一つは、天然ガスパイプライン網が未整備であることだ。もう一つは、量の確保を優先した長期契約を採用していることである。同契約では原油価格連動方式が採用されており、シェールガス革命によるガス価格低下の影響を享受できない。

LNG取引の決済価格には今日、合理的な価格体系の再構築が求められている。そうした中で、韓国は米国産LNGを基地の出口で買う方向で交渉している。その場合、取引価格は米国の市場価格に液化コストを上乗せする形で決められる。結果的に、韓国の北米産LNG導入が東アジア向けLNG価格体系見直しの契機となる可能性が高い。

前述した東アジアにおける4つの大きな流れの均衡点を模索するにあたっては、日本が自前資源を持つか否かにより、その地政学的意味は大きく変わる。北米産LNGの輸入確保はロシアに対するけん制球となり、ロシア産ガスの輸入は中東・アジアの既存LNG供給者に対して大きな価格是正圧力となる。そして何より日本がガス価格交渉で一定の発言力を確保するには、需要全体の10%でも自前の資源を持つことが必要だ。

エネルギーベストミックスは結果における絶妙なバランスの実現ではなく、消費するエネルギーの一定量についてはあらゆる手段を講じて自分で賄うという戦略意思に関わる問題にほかならない。

日本は天然ガス調達の選択肢が少なくないことを十分に認識し、かつそうした立場を強化するためにも、エネルギー自給率の改善をもたらすメタンハイドレートの開発を確実に進めることが重要だ。今年1月28日、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は地球深部探査船「ちきゅう」を用いて、愛知県渥美半島沖で海洋産出実証試験に着手した。同事業では準備作業終了後、メタンハイドレート分解によるガス生産実験が実施される。着実な成果が上がることを期待したい。

すどう・しげる 50年生まれ。中央大卒。専門は石油産業論

続いて、同じく日本経済新聞2013/2/7の記事。

シェール革命、世界の構図変える可能性 米の影響力一段と マネーの流れ・産業競争力・安全保障 日本、安定調達に生かせ

2013/2/7付

シェールガスと呼ぶ新型資源の登場が世界に「革命」を起こしている。大資源国としての米国の台頭はエネルギー需給だけでなく、マネーの流れや産業競争力、安全保障の構図も変える可能性を秘める。エネルギー資源を輸入に頼る日本はこの変化に向き合い、安定調達に生かしていかなければならない。(1面参照)

最大の生産国に

国際エネルギー機関(IEA)は米国が2015年に天然ガスでロシアを、17年に原油でサウジアラビアを抜き、世界最大の生産国になるとの見通しをまとめた。シェールガスやシェールオイルと呼ぶ新型資源の生産が急増しているためだ。

米国は世界最大の原油・ガス消費国だ。原油消費量の4割超、天然ガスの1割弱を輸入している。これが不要になり輸出も可能になるという。

06年に単位あたり9ドルを超えた米国の天然ガス価格は現在3ドル前後。ダウ・ケミカルやエクソンモービルは安いガスを原料に使う石油化学工場の建設を決め、製鉄所の新設計画も進む。米国の製造業はエネルギーコストの低下をてこに復権の道筋をつけつつある。

米国の「エネルギー自立」は貿易収支を大きく改善する。中東に依存していた原油輸入がいらなくなれば、中東の動乱に備えた国防費の軽減につながるとの見方もある。

一方、日本は世界最大の液化天然ガス(LNG)輸入国だ。原子力発電を代替する火力発電用の需要は急増し、12年の輸入量は前年比11%増の8730万トン。加えて欧米と違い、原油価格に連動して決まる日本のLNG価格は米国の天然ガス価格に比べ約5倍高い。

発電燃料費の増大は年間3兆円の国富流出を招いている。米国産の割安なガスを使うLNGを輸入できれば、「価格は下がる可能性がある」(日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員)。

東電400億円投資

東京電力は6日、三菱商事や三井物産を通じて米国産LNGを輸入する計画を発表した。これ以外からも割安なLNGを確保する交渉を進め、10年代後半をめどに年200万トンを調達する。受け入れに向けてタンク新設などに400億円を投じる。

現在の価格水準が維持されれば、東電は既存契約より約3割安くLNGを調達でき、年500億円程度の燃料費圧縮につながるという。シェール革命を利用し、割高なLNG取引に風穴を開けることが重要だ。

ただ、シェールガスがすべての問題を解決するわけではない。IEAのチーフエコノミスト、ファティ・ビロル氏は「天然ガスの黄金時代が軌道に乗るには二つの課題がある」と指摘する。

一つはシェールガスの採掘は水や化学物質を多用し、環境への影響を懸念する声があることだ。欧州には採掘を認めていない国もある。もう一つは、「米国の天然ガスがいつも安いとは限らない」(商社関係者)ことだ。ビロル氏は「ガス価格が5ドルなら石炭のほうが競争力がある」と指摘。米産業界にはLNG輸出に否定的な意見も根強い。

資源の安定調達に重要なのは調達先の分散だ。シェールガスのリスクも織り込みながら新たな調達ルートを開き、既存の調達先との交渉に生かす工夫が欠かせない。

 

(編集委員 松尾博文)

 

イチローインタビュー 日本経済新聞 2013/2/13

本日の日本経済新聞に、イチローのインタビューが掲載されていた。面白かったですね。

ということで、記事を以下に掲載します。

イチロー、40歳にして惑わず ヤンキースでの決意

米国での13年目のシーズンを控え、大リーグ、ヤンキースのイチロー外野手(39、本名・鈴木一朗)が日本経済新聞社のインタビューに応じた。不惑に対する考え、2年目を迎えるヤンキースでの決意を、時に考え込んで言葉を選び、時に身ぶり手ぶりを交えながら語った。

 ■誰かを「思って」戦うチーム

「常に挑戦し続けている」というイチローが選んだ舞台がニューヨークだ。昨夏、電撃的に移籍した名門ヤンキースと改めて2年契約を結んだ。

「ヤンキースでは『勝つこと』が使命であり大前提だ。加えてファンは勝つことだけでなくプロフェッショナルなプレーを見たがっている。これは僕にとってとてつもない力になる」

「あれだけのスーパースターが集まっているにもかかわらず選手のエゴが一切見えてこない。向かう方向が極めてシンプルでとても気持ちの良い環境だ」

しかしヤンキースの「ために」戦うのではない。大切にしているのは「思い」だ。

「『何かのために』は聞こえは良い。でも時に思い上がっているようにも思える。人間関係においても言えることだが、誰かの『ために』やろうとすると厄介な問題になることがある。しかし、誰かを『思い』何かをすることには、見返りを求めることもなく、そこに愛情が存在しているから不幸な結果になることが少ないように思う。昨年の3カ月だけだったが、ヤンキースは『思い』を強く持たせてくれた組織だった」

思いが結実したプレーがある。昨季のア・リーグのプレーオフ地区シリーズ第2戦。敵失で出塁したイチローは4番カノの二塁打で一塁から一気に本塁に突入。ここで「常識」を覆す行動が飛び出した。

「三塁コーチが腕を回している以上行くしかなかった。そのまま突っ込んだら3メートル手前でアウトになることは明白だった」

普通なら、加速してそのまま突っ込むところ、イチローが選んだのは別の方法だった。

「(セーフになる)可能性があるとしたら、スピードを緩めるしかない。(相手のウィータースは)頭のいい捕手なので、予測できない動きをすることでしか可能性は生まれない。相手の頭の中をちょっとした混乱状態に誘導するしかなかった」

捕手のタッチを2度かわし生還。「忍者」と呼ばれた(2012年10月)

ブレーキをかけたイチローは本塁前で腰をひねって捕手のタッチをすり抜け右に回り込む。2度目のタッチもかわしてホームに触れた。「忍者」と言われた本塁突入だった。

「僕の中で印象に残るプレー。単にフィジカルだけではなくて心理の戦いも含んでいた。アウェーだったので(球場で起きたのは)歓声ではなくどよめきだったが、あれは快感だった」

レギュラーが保証されているわけではない。厳しい生存競争に臨む武器はプロフェッショナル意識の高さだ。

「努力をすれば報われると本人が思っているとしたら残念だ。それは自分以外の第三者が思うこと。もっと言うなら本人が努力だと認識しているような努力ではなく、第三者が見ていると努力に見えるが本人にとっては全くそうでない、という状態になくてはならないのではないか」

「子供の時の感覚で楽しくて好きでいたいのならプロになるべきではないだろう。もちろん、違う種類の楽しみややりがいはたくさん生まれるが、プロの世界では楽しい時など瞬間にすぎない。ほとんどはストレスを抱えた時間だ。しかしその『瞬間』のために、ありったけのエネルギーを費やしていく。その中で、人間構築をしていかなくてはならないと考えている」

マリナーズ時代は200本安打という目標を掲げていた。

「実際にそれを目標に掲げていたのは2008年ぐらいまでだと記憶している。その後口にしなくなったのはそれが『達成したい目標』から『達成しなくてはいけない目標』に変化したからだ。続けていくことの難しさを痛感する中でそれまで誰もやっていなかった10年連続200本安打を達成できたことで気持ちに一区切りついた、ということもある」

 ■10の力を7に見せる

大リーグでのプレーも今年で13年目。日本でのプレー年数(9年)を上回っている。メジャーでも数々の記録を打ち立てたイチローの目には日米の野球がどう映るのか。

「米国の野球は『力対力』というイメージがあるがそれはイメージでしかない。力の意味が『能力』であればその通りだと思うが、大体は力は『パワー』と同義語になっているように感じる。とにかく相手の欠点を突いてくる。こちらが克服できなければ永遠にそうしてくるだろう」

文化、習慣の異なる中で勝負の世界に身をおいてきた。意識してきたのは己を貫くことだった。

「米国、南米出身選手の主張は強い。70(の力量)を100に見せて威圧する。僕が大事にしているイメージは全く反対で、100あるが70から80にしかみせない。それで実際には(相手を)ボコボコにする。そんなアプローチの方が楽しいし、見る人も面白いのではないか」

「今はまだ色紙に一言と言われても書けない。大切にする姿勢や哲学はあるが胸を張って一言残せるほどの自分ではない。偉人の言葉を引用する年配の方がいるがあれはダサいと思う。拙い表現でも将来自分の言葉で伝えられたらなと思う。しかし結局、言葉とは『何を言うか』ではなく『誰が言うか』に尽きる。その『誰が』に値する生き方をしたい」

■WBC、命削った勝ち越し打

 レギュラーシーズンだけでも日米通算で1万2000回以上もバッターボックスに入った中で「思い出したくない」という打席がある。2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝、対韓国戦。延長十回2死二、三塁で不振が続いていたイチローが打席に立った。

WBC連覇に導いた決勝打(2009年3月)=共同

「敬遠ならどんなに楽だろうと思った。そんなふうに思ったことは初めてだ。この打席で結果を出せなければ、今までの僕は全て消される、と思った」

「恐怖に震え上がっていた」という中で2連覇を決める中前2点打を放つ。代償も大きく、胃潰瘍を発症。大リーグ入りして初の故障者リスト入りも経験した。

「今後、どんな場面があろうともあの打席以上はないのでは、と想像している。野球をやりながら『命を削る』という意味を初めて知った瞬間だった」

 ■理解苦しむ「定年」

 10月に40歳を迎える。野球界では大きな節目とされる。

「野球界には、40歳で定年みたいな価値観がいまだになぜか残っている。その現状が僕にとってはクエスチョンだ。様々なことが前へ進んだ中で、40歳定年の思考は理解に苦しむ。食生活、住環境、野球をとりまく環境、トレーニングの発達、道具の進歩など、昔とは比較できないほど進んだ。選手寿命だけが進まないと考えるのは、その人たちの思考が止まっているように思えてならない。彼らは僕がこう言うときっとこう言うだろう。『若いくせに生意気だ』」

「個人競技だとしたら、今の状態で引退を考えることはあり得ない。ただ団体競技なのでポジションが限定される。純粋な能力ではなく年齢だけを見て省かれるという理不尽なこととも戦っていくことになる」

常に高いモチベーションを持って挑戦し続けてきた。

「僕はずっとエネルギーを注いできたものに携わっている。最も大変なことは自分が好きでもないことをやらされて、それを好きになれと言われ、結果を求められることではないか。それで壁を感じているならばすばらしい。壁が出てきたということはそこに全力で向かっていく気持ちが存在し、さらに労力を費やしてきた証しだと思う」

ブログなどを活用するアスリートが増える中、改めて情報発信の重要性を感じている。

「エンターテインメントの世界に対し見る側は対象が遠くにいると近づいてほしい、でも近づきすぎることは望まない。親しみを求めながらも憧憬の念も抱いていたい。その心理は複雑だ。距離感はとても大事だ」

いつか、「イチロー監督」をみてみたい、とのファンの声は多い。

「現時点でそれ(監督)を問われたら『ありえない』と答える。ただ、王貞治氏に『現役のときに監督をやることを想像していましたか』と伺ったことがある。『全く想像できなかった。自分が監督になるとは思っていなかった』とおっしゃった。それを聞いた時に自分の気持ちも将来、どう動くか分からないとは思った。ただ自分がその器でないことくらいは現時点でも分かる」

世界に出て再認識したこと。そのひとつが日本語を大切にすることだ。

「米国に行ってから、日本語の深さや美しさを自分なりに感じるようになり、日本語をきれいに話したいと思い始めた。日本語でも自分の感覚や思いを伝えることは困難だと感じている。それが外国語となれば、不可能に等しい。英語で苦労する以前に、僕は日本語で苦労している」

野球以外でも、経済や日本企業の動向などにも高い関心を持っている。

「日本の製品は安心感が抜群。外国メーカーの技術も、実は日本人が開発していることが多いのでは、と想像している。技術が外に出ていく状況をつくってしまった国や企業に対して、それはいかがなものか、とは思う。いま、安倍(晋三首相)さんのこと、めちゃくちゃ応援しているんです。頑張ってほしいです」

「初めて株を買ったのが、中学生の時。それで、中学のころから株価分析の本を読んでいた。任天堂の簡単な株のゲームなんかも好きだった。今もホテルでリクエストしているのは、日経新聞。応援したい企業の現物株を買って、ちょっとだけ配当をもらうというスタンスだ」